ユダヤ人の友人ゲイルの母の葬儀

『ニューヨークのとけない魔法』の「ポテト・パンケーキ」という話に出てくるゲイルの母親ローズが3日前に亡くなった。昨日、ゲールの車で私たち夫婦も一緒に、ウエストチェスターの葬儀会場へ向かう。

ゲールの家族はユダヤ人。ジューイッシュセンターで行われた葬儀は、葬儀場というわけではなく、ホールに椅子が並べられているだけ。花も飾られていない。音楽もない。真ん中に、ごくシンプルな白木の棺が、ホールの真ん中に置かれているだけだった。棺の上には黒い布がかかっているだけで、全く飾り気はない。棺は閉じられたままで、最後のお別れもない。元気な時のまま、故人を覚えていてほしいからだ。

ユダヤ教では、キリスト教のように遺体のエンバーミングをせず、亡くなった時の状態のまま、神のもとへ返すという。

祈りの歌を早口に歌うのは、ラビ(聖職者)ひとり。ラビや家族などがローズの思い出を語った。皆の思い出は、「ポテト・パンケーキ」に出てくるあのローズそのものだった。

ローズはポーランドで生まれ育った。第二次大戦中、ローズの家族は皆、ナチスに殺された。ローズは、クリスチャンの家族がかくまってくれて、助かった。同じくポーランド生まれのユダヤ人のマックスと出会い、3か月後に結婚。

70年間連れ添ったマックスが3年前に亡くなると、「マックスに会いたい」といつもつぶやき、腎臓の機能などが衰えていったのに、薬を飲むことを拒んだ。むりやり口に入れようとしても、吐き出してしまう。

葬儀場に向かう車のなかでゲイルは、私たち夫婦に言った。
She was ready go to.(もう逝く準備がでていたんだと思う)。なき夫に会うためにーー。

葬儀のあと、車で一時間ほどかけて、ニュージャージーのユダヤ人墓地へ、ゲイルの姉の友人の車で向かう。この友人は『ニューヨークの魔法のじかん』のカジノの話に出てきたことを、彼女も私も、昨日、再会して思い出した。

墓地に着くと、棺を埋めるための穴が掘られていた。その脇に、掘った土が山になっていた。しばらくすると、家族の男たち10人ほどに抱えられ、棺が運ばれてきた。

そのなかのひとりが、待ったをかけた。穴の深さが浅すぎると言った。6フィートなければならないのに、5フィートしかない。と。家族の男たちも一緒になって、大きなスコップで、皆が穴を掘り出した。待っている時、深さが足りないことに気づいた男性が、「面倒を起こしてすまないな。私は今までにたくさん墓を見てきたから、気づいたんだよ」と言った。

ローズはすぐにみんとお別れしたくなかったと見えますね、とラビが笑わせた。

二本のベルトで吊るされた棺を、家族で穴の中におろす。しっかりと安定しておさまるのに、なかなか時間がかかる。

ユダヤ教の葬儀にふつう、花は使われないが、ゲイルは一輪の真っ赤なバラを手に持っていた。母親の名前がローズだから、友人が手渡してくれた、という。その花びらを家族に配った。ゲイルがI love you, Mom.と棺のなかの母親に向かって語りかける。皆が巻いた花びらが、ひらりひらりと棺の上に舞い落ちた。

スコップの裏側に土をのせて、子どもたち、そして孫たちが、棺に土をかけていく。スコップを直接、次の人に渡さないでください。手から手にスコップを渡すのは、愛する人を埋葬しなければならなくなることを意味するから、とラビが言うと、ゲイルが深くうなずいた。

親族以外の私たちは、スコップに普通に土をのせ、静かに棺に土をかぶせた。

それからラビがナイフを取り出し、ローズの子供たちそれぞれの服の、心臓の辺りを切り裂く。

祈りを捧げ、親族と友人たちがそれぞれ別々に列を作り、墓地を去っていった。

そのあと、同じ友人の車で、ゲイルの両親の家へ。いくつかの部屋のテーブルに、山盛りのベーグル、スモークサーモン、クリームチーズ、卵サラダやツナサラダ、フルーツ、クッキーなどがぎっしりと並んでいる。

ローズがよくすわっていたというチェアの前で、ラビが家族の男たちひとりひとりの腕とおでこに、黒い小さな箱を当てて、ベルトの紐で腕に巻きつけ、祈りを捧げた。神とのつながりを意味している。これはマンハッタンの街中でもときどき、ルバビッチと呼ばれる正統派ユダヤ教徒がしているのを見かける。

養子として迎えたアフリカ系アメリカ人の男の子も、ヤマカという帽子をかぶり、チェアの前で祈っていた。彼は葬儀で、「ローズおばあちゃん」に語りかけながら、激しく嗚咽し、言葉にならなかった。

悲しみの最中だけれど、皆が大きかったローズの存在を感じている。幸せを兄弟姉妹、子ども、孫、親戚、友人達。皆がハグし、頬ずりをし合っている。

夕方になると、白い大きなろうそくに火が灯された。亡くなってから一週間後の今週の金曜日まで、七日間、喪に服し、家族はローズの家を離れない。

ラビが何度も皆に語りかけた。
皆さん、ローズの名のもとに、人のために何かよき行いをしてください。誰かのために料理する。貧しい人に寄付をする。愛を表現する。どんなことでもよいのですーー。

写真は、若き頃のゲイルと両親。

墓地のあるニュージャージーからマンハッタンへとジョージワシントンブリッジを渡っているところ。

ポテト・パンケーキの話(電子書籍より)です。ぜひ、ローズについて、読んでください。

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