気がつけば、魔法は小ハゲ天にもあった。

「俺たちは銀座に行っても、なぜか「小ハゲ天」で食事ーーみたいなパターンになるから、今夜はそれだけは避けたいな」と言っていたくせに、なぜか私たちは、その夜、「小ハゲ天」にいた(でも、考えてみたら、「小ハゲ天」で食べたのは、その夜が私たちの人生で2度目だった。一度、バレンタインデーのサプライズ・ディナーと言われ、嬉々として夫のあとをついていったら、フェイントで「小ハゲ天」の前まで連れていかれたことはあったけれど)。
「小ハゲ天」は、銀座の老舗天麩羅屋「ハゲ天」の超庶民派の店。初代店主が完全なハゲ頭だったので、客が「ハゲ天」としか呼んでくれなかったことが由来らしい。

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私たちが店に入ると、隣のテーブルの中年外国人カップルが勘定のために立ち上がった。ふと見ると、椅子に皮の手袋が置き忘れられている。

夫が声をかけて、手袋を渡すと、「ああ、ありがとう。よかったよ」と嬉しそうに笑った。
「どこから来たの?」と尋ねると、「フィンランドだよ」と男性が答える。「フィンランド! 昨秋に行ったばかりだわ」。「ええ、そうなの? ヘルシンキ?」「そうそう、ヘルシンキ」。
あ、もうちょっと早く「小ハゲ天」に入っていたら、彼らといろいろ話せたのに。


彼らが出ていくと、スーツケースを引きながら20代くらいの中国人カップルが入ってきて、同じテーブルにすわる。ふたりともスマホをいじり続けているので、私たちも声をかけない。向こうのテーブルにも、白人の中年外国人カップルが見える。
外国人率、高いのね、小ハゲ天。ガイドブックに載っているに違いない。

 食べ終えて地下鉄への階段を下りようとしていると、「あの人たち、困っているんじゃない?」と夫。ふと見上げると、白人ふたりが地図を広げ、道に迷っている様子。
さっき、小ハゲ天で、向こうのテーブルで食べていたふたりだ。
Can I help you? NYと同じく東京のどこでもいつでも道に迷い、人に迷惑をかけている私が、そう声をかける(helpできんの?)。
Yes, how can we go to Shinagawa?(品川はどうやって行けばいいんですか)
道順は夫に任せる。とはいえ、「地下鉄ではなくJRだね。ここをまっすぐ行けば、右か左に有楽町の駅があるよ」程度のいい加減な道案内。
「どこから来たの?」と私(それしか質問、ないんかい?)。
「イタリアのボローニャよ」。初めて日本に旅行に来たという。
へえ、ボローニャ。イタリアは何度か言ったけれど、ボローニャにはまだ言っていないな。ボローニャと言えば、ソーセージ…大学……。
「トーキョーの印象は?」と私が聞く。
Oh, it’s beautiful.(みんなそう言うんだよね、とりあえず)
「正直に言ってみ?」と私。
「しょ…正直に言ってるわよ。本当に美しいわ!」
「ナニが美しいの?」
「ナニが、って…」と夜の銀座をぐるりと見渡し、「Lights, everything. It’s so modern.(明かりとか、何でもよ。本当にモダンなんだもの」

TRG DSCF2438「ふうん」
「美というのは、さまざまなのよ。高いビルも美しければ、低い建物も美しいの」
ボローニャにはない美が、東京にはあるのね。

 東京の美を教えてくれたふたりに、Enjoy your stay.と別れを告げ、無数の明かりが美しく輝く銀座の夜空を見上げる。

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 ニューヨークは魔法に満ちている。
気がつけば、魔法は小ハゲ天にもあった。

そして魔法はまだ続く。このあと、地下鉄に外国人グループが乗り込んできて、私たちの座席の隣と前にすわった。しかし。書くのも読むのも疲れるから、地下鉄の「とけまほ」(とけない魔法)はまた今度。もう十二分に長いよね、この文章。週末でよかった。

★6/4(土)青山学院大学の記念礼拝堂で話します。着々とお申込みが増えています。

どうぞお早めに♡。事前にお振込みいただく必要があります。詳細はこちら☟

6/4(土) 青山学院講堂で講演します。その後、読者親睦会があります。

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