義父母の血を引いて

「結婚するなら、お父さんみたいな人がいいよー」。お正月に夫の両親を尋ねると、義母がしみじみとそう言った。義母が寝たきりになって、もう何年になるだろう。
毎年のように行っていた海外旅行をきっぱり諦め、義母の世話を朝から晩まで献身的にしている。「かあやん、大丈夫か。痛いか」、「今日は笑顔で嬉しそうやな」などと、しょっちゅう、声をかける。
久しぶりに会った義妹の家族とうっかり話に夢中になっていると、「かあやんにも話しかけてやってくれよ」と義父。
その昔、義母は広島の原爆で両親と兄を一度に失い、辛い思いをして生きてきた。義父母は同じ高校の同級生だったが、話したことはなかった。
義母にずっと思いを寄せていた同級生に、義母に一緒に会いに行こう、と義父が誘われた。当時、義父は広島大学に通い、義母は広島の老舗デパート「福屋」で働いていた。
久しぶりの再会だった。同級生は遠くに住んでいたので、「彼女をよろしく」と義父に頼み、「それで私が引き受けたということなんだ」と義父は、そんな話をこの正月に初めてしてくれた。
友達が好きだったカノジョを、お義父さんが奪っちゃった❓
義母はとても綺麗な人だった。
「お母さんの美しさに、マイっちゃったんですね」と私がからかうと、「当たり前やろ。そうじゃなかったら、今一緒にいないよ」と義父が笑う。
で、お義父さんと友達の友情は破綻しちゃった❓
「そんなこたぁ、ないよ。ほら」と、お義父さんは今年、その友達から届いた年賀状を見せてくれた。
「Mさんを大切にしてください」と書かれていた。
なんて心の広い友達なんだ❣️
そして、お義父さんはその言葉を、守り続けてきた。
義母が入院した時、「疲れているだろうから交代するよ」と夫が言っても、「いや、わしがいないと。ここがいいんだ」と、義母のそばを片時も離れようとしなかった。
「本や新聞を読むでもない。とおやんは、ただ、かあやんの横にすわって、かあやんのことを見てるんだ。本当にかあやんを愛しているんだな、としみじみ思ったよ」と夫が言った。
一昨日の夜から、私は体調を崩した。熱は37度3分だったけれど、ひどい頭痛と嘔吐で、執筆しようとパソコンに向っても、白湯をひと口だけ飲んでも、吐き気がする。今やっと、これを書くためだけに、パソコンに向かうことができるようになった。
昨日も今日もずっとベッドの中で、ほとんど寝て過ごした。夫が湯たんぽに熱湯を入れ、3種類の薬を出して口に入れればいい状態にして、白湯と一緒に枕元まで運んでくれた。
「なんだか、親父とお袋みたいだな」と夫が笑う。
義父母の家の帰り道、「私がお義母さんみたいになっても、お義父さんみたいにはできないよね」と私がからかった。
でも、あなたは確かに、義父母の血を引いている。義母はずっと教会に通い、お年寄りの世話や話し相手をずっとしてきた人だから、立場が逆だったら、きっと献身的に義父の面倒をみていただろう。

 

でもでも、ふたりとも、いつまでも元気でいられるように、頑張ろうね。健康って本当にありがたい。ふだん、当たり前だと思っていることを教えてくれるために、神様はときどき、私たちを病気にしてくれるのかな。

Photo: Manhattan, New York

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