☆6/18(日)読者との集い。詳細はこの記事の最後をご覧ください。
昨日、寝たきりの義母を訪ねた時、別れ際に初めて気がついた。
枕元に、カバーを外した文春文庫が1冊。『ニューヨークの魔法の約束』だった。表紙は汚れ、本はくたくたになっていた。
数週間前に病院に付き添った時、渡した本だった。ずっと痛みで苦しんでいるから、本を読むことなどできないだろうと思った。
義父が言った。「かあやんなぁ、光世さんの本、一生懸命、読んでるんだよ。カバー外してなぁ。この前、読んでた別の本は、かあやん、読み終えると、1枚1枚切りとっちゃうんだ。なかなかためになることが書いてあるなあと思って、わしも読もうと思ってたんだがなぁ」。
「お義母さん、私の本を読んでくれてたの?」
義母がうなずく。
夫が登場するページに、付箋を貼っておいた。
「智さん、もう出てきた?」
「まだ」
「お義母さん、この本は切り取らないでね」と私が笑う。
「切り取るわけないだろ」。義母が答える。
私の本を枕元に戻すと、その周りのシーツの上には、細かくちぎられた紙が何枚もばらまかれていた。
1枚を手に取ってみると、聖句だった。
義母はクリスチャン。
読み終えると、自分の体に取り込むように、切り取っていくのだろうか。
だったら、お義母さん。私の本も切り取ってください。
義母の枕元の写真を撮るのは、はばかられたから、私の枕元に置いて1枚ーー。この本はまだ、きれいですね。