女優の黒木瞳さんのラジオ番組にゲスト出演し、「ニューヨークの魔法」シリーズに
ニッポン放送 ENEOSプレゼンツ あさナビ
放送日 4月4日(月)~4月8日(金)
放送時間 朝6:43~6:50
かなり食べてしまったあとの写真ですが、これが昨日、投稿した、黒木瞳さんのツボ、”羊のお頭(かしら)”です。歯がずらりと並んでいるのが見えますか。
「羊のお頭」(『ニューヨークの魔法のじかん』より抜粋)
ラムの頭だよ。最高に旨いぞ。
注文を取りに来たウエイターのおじさんが、夫に向かって親指を立てる。
You know the good stuff.
通(つう)だね、あんた。
ほどなくして、店内に、バンバンバンと聞きなれない騒がしい音がこだまする。私と夫は思わず、おしゃべりをやめ、耳をそばだてる。どうやら厨房から聞こえてくるようだ。
骨を叩き割っている音か。
下手物好きのくせに、夫には臆病なところがある。すでに、顔にはやや後悔の表情が見られる。
ウエイターがにこにこしながら、夫の前に皿を置く。注文どおり、羊の頭が載っている。ぎょろりとした黒い片目が私をにらんでいる。見たくもないのに、羊と目が合ってしまい、慌てて目をそらす。気味が悪くて、直視できない。
濃厚で独特な羊の臭いが、湯気とともにお頭(かしら)全体から漂ってくる。
羊の目を見ないように注意を払いながら、顔の表面にかろうじて貼り付いている、よく焼けた飴色の肉を、手でバリバリはがしながら食べる。むろん、こんな野蛮な料理に、ナイフとフォークの出番はない。
やや塩味があるようだが、さらに塩コショウとオリーブオイルをかける。
夫が歯茎の辺りの肉を食べるさまは、まるで羊とキスしているようだ。心を無にして、食べることに集中し、立派にそろった歯を極力、見ないように努めているらしい。
白く柔らかい部分は、脳味噌だ。ぼそぼそして見えるものの、口に入れるととろける感じがして、白子のようだ。
こればかりは、もう二度と注文することはないだろうな、と夫がぼそりとつぶやく。
私はひとり、心安らかに、自分の料理を味わっている。
カラマリは、文明開化の味がした。