父の誕生日だったか父の日だったか、覚えていないけれど、私が小学生の時、文房具屋さんに行って、お小遣いで四色ボールペンを買った。

父は言葉遣いや躾にとても厳しく、弟も私もよく殴られた。

それでも父が大好きだった。

喜んでくれますように。

ドキドキしながら、父にボールペンを手渡した。


父はボールペンの芯の色をカチャカチャと替えながら、思いがけずとても喜んでくれた。

それを見ていたら、四色ボールペンがとってもステキなものに見えて、私がほしくなってしまった。

次の日、おそるおそる父に近づいていき、勇気を出して言った。

「昨日、パパにあげたボールペン、返してください」

叱られる、と思った。

なんて礼儀知らずなんだと、また殴られるかもしれないのに、よくあんなことが言えた、と今になって思う。

でも父は楽しそうに笑いながら、そうか、自分でほしくなったか、と言って、ペンを返してくれた。

だからさっき、仏壇に、四色ボールペンを置いてきた。

今日、何の日? と聞くと「知らない」と母。

パパの誕生日だよ。

父は、あの数年後に急死した。

「死んだ日のほうが新しいんだから、誕生日なんか覚えてないよ」と、いつものように母はサバサバしている。

でも、四色ボールペンの話をしたら、ふだんは私の話にほとんど反応しない母が、クスっと笑った。

母はちょうどその足で、いつものように仏壇にお茶とご飯を供えに行った。

母に四色ボールペンを見られるのが、ちょっと恥ずかしかった。

パパ、お誕生日おめでとうございます。
パパがいなくなってから、私たち3人を女手でひとつで育ててくれたママは、娘としょっちゅうケンカしながらも、元気に暮らしています。

この写真は、『ニューヨークの魔法のかかり方』におさめられています。ーーCentral Park, New York City