フランスでのちょっとしたハプニングを。

シュヴェルニー城を訪れた時だった。

ロワール渓谷には素晴らしい城がいくつもあるが、ここは今も一族が所有し、城の一角に住んでいる。

城の入口でチケットをチェックする時も、「ようこそ、シュヴェルニー城へ」と笑顔でふたりが立ち、知り合いの豪邸へ招かれたような気持ちになる。

入口でこの男性にそう伝えると、「マダム、それはありがとうございます。ここを訪れる人に、そのような気持ちになっていただけるように、努力しております」と答えた。

入口のすぐそばの部屋に、大きな木製のテーブルがあり、「触れないでください」と札が置かれていた。

が、私のすぐそばにいた白人男性が、テーブルの上に自分の物を置いたり、しゃがみこんで脚に触れたりしていた。

私は男性に近寄り、「テーブルには触れないように、と書かれていますよ」となるべく穏やかに声をかけた。

でも、その男性は気分を害したようで、フランス語でも英語でもない言葉で、やや強い口調で私をののしった。

私は何も答えずに、室内にあるほかの調度品を見ていた。

しばらくすると、私の前に別の男性が現れ、立ちはだかった。

そして、言った。「Merci(ありがとう)」と。

ありがとう? 私に?

人違いかと思い、私がきょとんとしていると、「Merci. Merci」と私の目をしっかり見て、何度もそう繰り返した。

「え? 何が、ですか」と私が尋ねた。

「テーブルに触れないように、とあなたが注意してくれた。Merci.」

 男性は観光客のようだ。さっきのやりとりを見ていたのか。

「ああいうのって我慢できなくて、つい言ってしまうんです。でも、彼は気分を害したみたいで」と私が笑顔で言った。

 その人の向こうに白人女性が立ち、ほほ笑みながら私たちを見ていた。

「僕も彼に注意しようと思ったんだ。でも僕より君の方が、行動が早かった。Merci.」

 美術館や博物館で、写真撮影禁止の場所で撮影している人などを見かけ、同じように声をかけたことが、これまでに何度かある。でも、そばで見ていた人にお礼を言われたのは、初めてだった。

「あなたはフランス人ですか」と彼に聞いた。

その人は少し間をおいて、「彼女はフランス人ですよ」とそばにいた白人女性を見た。

「私はレバノン出身で、フランスにずっと住んでいます」

そんなやりとりをして、いい一日を、と挨拶し、別れた。

わざわざ私のところにやってきて、「Merci.」と声をかけてくれたその人の思いが、うれしい。訪れたほかのロワールの城のなかでも、特別な城として、私の心に残り続けるだろう。

この城ではほかにも素敵なことがあったので、続きはまたーー。

💛 💛 💛 💛

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