がんセンターのとけない魔法

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「ニューヨークの魔法」シリーズ(文春文庫、第1弾〜第8弾まで)。世界一お節介で、図々しくて、孤独な人たち。でも、泣きたくなるほど、温かい。たった一度のあなたの人生を、もっと肩の力を抜いて生きていこう、と思うはず。どの話にもニューヨークでよく耳にする英語がちょっとだけ入っていて、ほっこりしながら英語も学べます。シリーズのどの本から読んでも楽しめます。シリーズはすべて、普通の文庫(紙)もKindleもあります。内容はAmazonでどうぞ。下のチラシをクリックす☕ると、「ニューヨークの魔法」シリーズの第1弾に飛びます。

【がんセンターのとけない魔法 】

行ってきた、有明がん研病院へ。検診で「肺がんの疑いあり」ということで、精密検査でCTスキャンを取った結果、おそらく良性の肉芽腫だろうという診断だったが、読者の方などが「念のために」と背中を押してくれた。

ゆりかもめに乗って、なんだか遊びに行くような気分。一番前の通路側の席が空いていたので、座らせてもらう。進行方向を向いているこの席はいい。窓側の隣の若い女性に、「毎日、これに乗って通勤してるんですか」と聞くと、「はい」と笑ったので、「いいですね」と私が言った。

まずは病院のロビーにびっくり。まるでホテルのよう。新しくて開放感、高級感がある。レストランは老舗の「東京會舘」。

でもガン研究では100年以上の歴史を持ち、ガン研究会の付属病院として1934年に開院した。

受付の女性が「保険証をおしまいください」と言い、私がしまうのを黙って待って、ちゃんとしまったのを確認してから次の説明に入ったのには、驚いた。ふだんならしまいながら、次の説明を聞いていた。ま、受付の人によるのかもしれない。

紹介状とX線やCTスキャンのCD-ROMを提出し、たくさんの書類に健康状態などを書き込み、診察室へ。2010年のX線と今年のCTスキャンを見ながら、説明を受ける。

「問題ありません。経過観察の必要もありません」とのこと。ああ、よかった、ありがとうございます、と思わず口から出た。

私は母が作るおにぎりがとても好きで、昨夜、「あの美味しいおにぎりが食べたいなぁ」とちょっと甘えてみたら、母が朝食に作ってくれた。

おにぎりだけでよかったのに、卵焼き、魚肉ソーセージ炒め、茹でブロッコリー、鯖の缶詰をおかずに詰めてくれた。ロビーでは飲食できるスペースがあり、時間がある時にそこで二度に分けて食べた。

診察と会計を終え、ロビーにあるファミリーマートでコーヒーとドーナツを買い、店の前のテーブルにすわった。老夫婦と相席させてもらったら、隣のテーブルが空いたので移ると、「どうもすみません」と女性が言い、会釈し合った。

ひとりでコーヒーを飲んでいると、高齢の女性が「こちら、(すわっても)いいですか」と声をかけてきた。その人はパックのいなり寿司や巻き寿司を食べ始めた。

「ここには何度かいらしているんですか」と声をかけた。「ええ。入院して手術して、今日は生検の結果を聞きに来たんです」とその人が答えた。

神奈川県から3時間半かけて来ている。マンモグラフィは痛いと聞いていたから、ずっと受けずにいつも自分で旨を触診していたら、ある日、小さなしこりに気づいた。近くのクリニックへ行くと、おそらくガンでしょう、とすぐに紹介状を書いてくれた。

「こうしてここでは病気のことをいろいろ話せても、うちのお隣の人にも友達にも、話せないんですよ」
「どうしてだろ?」と私。
「どうしてなんでしょうね」
「私だったら、みんなに言いそうだけど」と私が笑う。
「あら、そうなの?」と女性は驚く。
「たぶん」と私。
「あら、そう・・・」と女性。
「同情されたくない、と思うのかな?」
「いや、そうではないわね。今も鏡の前に立って傷のある自分の胸を見て、ほっぺたをつねってるの」
「夢じゃないか、って?」
「そうそう」
「自分でまだ、受け入れたくない、と思っているのでしょうね」
「そう。そうなのね、きっと。なんで私が、って思った。でもね。ああ、これが私でよかった。娘や嫁さんじゃなくてって、思いましたよ」

私のことを聞かれて、話すと、「何もなくて、本当によかったですねー」と言った。心からそう言ってくれているのが、伝わってきた。

その女性と、ときにタメ言葉になっちゃったりして、一時間ちょっとおしゃべりした。まったくの他人なのに、なんだかとても親近感を覚えた。

私がふだんはとても健康的な食生活(その時のドーナツは大目に見てね♡)を送っているので、それについていろいろ話した。

「これはガンが大好きそうですけどね」と食べ終えたドーナツの袋をさして私が言うと、「いいのよ。好きなものは食べれば」とその人が答えた。

そして、「いいお話をたくさんありがとう。私も健康に気をつけているけど、あなたには敵わないわ。見習って、私も庭のドクダミでお茶作るわ。あなたはガンの疑いがあっても、ガンにはならないわ!」と笑った。

私の仕事の話になり、「岡田光世さんですね。今度、本を探してみます」と言った。お名前は? と聞くと、「私? カツコ。兄は国夫。戦争中に生まれたので、国が勝つ、なの」。

「じゃあ、きっとガンにも勝ちます!」と私が言った。

お会いできて楽しかったです。そう言い合って別れた。

がんセンターのとけない魔法だった。

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