病室の静かな朗読

今まで書くのはためらわれたけれど、12月の池袋の講演会でだけ、この話をした。

小学生の時に親友だった友が、昨年11月、突然、倒れ、意識不明になった。

友に会いに行った。家族や親しい友人と語りかけ、体をさすり続けた。意識のない友に、まだ発売前だった新刊『ニューヨークの魔法のかかり方』の表紙を見せ、ぱらぱらとページを繰り、元気になったら読んでね、と枕元に置いた。 友のお母さんも本を手に取って、娘に見せ、話しかけてくれた。
「オカちゃんが書いた本だよ。元気になったら、読ませてもらおうね」と。

その時に一緒にいた友人から、翌朝、メッセージが届いた。

上の血圧が50まで下がり心配でしたが、手を握って話しかけ、話すことも出てこなくなり、「ニューヨークの魔法」の本を読んであげました。血圧が84まで戻りましたよ。魔法が出た! 明日の朝も第2章から読んであげます。ありがとう。

そしてまた、すぐにメッセージが届いた。

凄い、107まで来た。喜んでる。本の力!! 明日の朝、第2章に行けるように、今日も頑張ってくれると思う。

その2日後に、再びメッセージが届く。

本は残り4分の1かな。終わると逝っちゃいそうで、しばらく音楽にします。

そしてその直後、友は逝った。

講演会のあの日、朗読グループの人たちが、この本を朗読してくれた。
友人はそれよりひと足先に、たったひとり病室で、大切な友のために、この本を静かに朗読してくれたのだ。


この夏、友と最後にメールを交わしたとき、私はパリからノルマンディ地方に向かうところだった。「ノルマンディ、いいよね」と彼女が言ったから、今日の写真はノルマンディのオンフルール。

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