大切な友の意識が戻らない。
数日前、会いに行った。
語りかけ、手をさすり、語りかけ、頭をさすり、語りかけ、肩をさすり、語りかけ、足をさすった。
届いたばかりの新刊を、枕元に添えた。
元気になったら、読んでね、と声をかけながら。
しばらくして、彼女のお母さんが私の本を手に取ると、本を開いて友の顔の前にかざした。
オカちゃんが書いた本だよ。元気になったら、読ませてもらおうね。
お母さんが言った。家にいると、この子の匂いがするんですよ。
2時間、病院にいて、私が帰ろうとすると、お母さんが涙した。
来てくれて、本当にうれしかった、と。
思わず、お母さんを抱きしめた。アメリカ人みたいなハグだったから、お母さんはちょっと戸惑っていたようだけれど、お母さんも私をハグし返した。
お母さんが嗚咽した。私はずっと離さなかった。
しばらくすると、お母さんが、子どものようにかわいらしい声で、ぽつんとつぶやいた。
いい匂い…、と。
そして、無邪気な顔して、少し笑った。
そのときのことを、思い出していた。そして、こうしてこれを書いていたら、たった今、連絡が入った。
さっき、息を引き取りました。
この写真は新刊にのっているから、友にいち早く届けることができた。—Central Park, Manhattan