誕生日にどうしても会いたい人がいた。「ニューヨークの魔法」シリーズに何度か出てくる、韓国系アメリカ人のグレイス先生。もう94、95歳かな?
コロナ騒動になってから、電話で話していた。私だと知ると、「わあ、岡田さん? 会いたい!」と言ってくれる。が、それ以上、なかなかうまく伝わらない。先生とは日本語で話す。
誕生日に、仕方がないから、先生が住むアパートのビルまで行って電話したら、もうそこまで来ていることがどうやら伝わった。
「廊下で先生の顔を離れたところでひと目だけ見たら、帰ります」と伝えた。
先生の階でエレベーターを降り、遠くから先生の部屋の方をのぞくと、ドアを開けて、少し悲しそうな笑顔で先生が立っていた。
遠くに立ちながら、私が両手を大きく広げて、ハグする真似をした。先生の笑顔が明るくなる。
「今日、私の誕生日なんで、先生に会いたかった」
そう言いながら、涙で声が震えた。
たぶん、その声は届いていないけれど、先生も泣いている。
「あなたが日本に戻る前には、きっと会えるわね。会いましょう」
そう先生は言った。「はい」と私も答えた。
でも、たぶん会えないだろう。コロナはあと、どれだけ続くのか。
「早く行きなさい」と先生が言った。
私のことも心配しているのだろう。
私がエレベーターに乗ると、先生は廊下に出てきて、壁に寄り掛かり、ドアが閉まるまで私を見ていた。
その時に撮った先生の写真。
先生が、小さく見えた。