「大変なときだから、無理しなくていいぜ」。チケットを買ってくれていた高校時代の友人の鯨井クンが、そう夫にメールをくれた。私のFBを読んで、義母の死を知ったらしい。
行くよ、と夫が言ったから、昨夜は武道館でTOTOのライブだった。鯨井くんの友人と4人で。いつものコンサートより、夫は静かだった。私が背中をなでていると、「大丈夫だよ。ありがとう」とささやく。でも、RosannaとAfricaでは楽しげだったし、ジョージに捧げられたWhile My Guitar Gently Weepsも感動したようだ。
帰りの電車で夫がつぶやく。「どうせ燃えちゃうけど。母親の棺に何か入れたいな。自分が書いた本にしようかな」。「お母さんに手紙を書いたら? 」と言うと、「そうだな。そうしようかな。一緒に書こうか」と。私は新刊の「義母のニューヨーク」が手紙代わり、と答えると、「そうか。あれは最高の手紙だもんな」と。でも、夫がそうしてほしいなら、一緒に書こうと今、これを書きながら、思っている。
出勤前に夫が今朝、ぽつりとつぶやく。「いよいよ、別れだな」。母は明日の朝まで、自宅で棺に眠っている。明日、火葬、そして葬儀。
新刊のゲラのチェックの合間に、ふたりの喪服を出し、陰干しする。夫の喪服を抱えて階段を下りながら、思わず喪服を抱きしめる。これまでふたりで一緒に、何度も喪服を着てきたけれど、明日は、誰よりもこれを着たくなかった人のために、着ることになるのだ、と。