苦労した(ってほどでもないけれど…)オペラハウスでのサプライズです。
トランプ大統領、シリアに軍事行動。スウェーデンではテロ。今、こんなことを書いている場合ではないですが、書いたのでアップします。
投稿、長くなりました! 本でも、もっと短いかも…。で、アップしようとしたら、撮ったはずの写真がない! 夫が日本に持って帰った? なぜか見つからないので、夫のFBから借りましたーー。
先日、リンカーンセンターのメトロポリタンオペラハウスで「アイーダ」を夫と観ることになっていた。
オペラは7:30pmに始まる。夫には内緒で、オペラハウス内のレストランで5:30pmからディナーの予約を入れておいた。
ワインとフルコースの前菜と主菜はオペラの前に、最初の休憩でデザートとコーヒーを、そして最後の休憩でワインとチーズの盛り合わせを注文することにした。
その2週間ほど前にオペラ「ロミオとジュリエット」を観た時、休憩中、エレベーターで上に上がり、ホールから豪華なシャンデリアの向こうに見えるレストランを眺めながら、あそこで今度、ワインを飲みたいな、と夫が話していた。
誕生日の日、夫は風邪で体調がすぐれず、美味しいけれどオシャレとはいえないベトナム料理の店で、夕食を済ませた。
だから、ちょうど1週間後のこのオペラ鑑賞の日に、サプライズ・ディナーのお祝いを考えた。
スーツを着てきてほしかったので、「休憩にオペラハウス内のレストランで、ワインとつまみが注文できるようにと予約を入れたよ。食事はオペラハウスの近くで、いくつかレストランを下見してあるから、適当に食べよう」と夫には伝えておいた。夫は喜んだ。
その後、夫は日本に戻り、私はひとり、NYに残った。
「ロミオとジュリエット」以外にもオペラを見に行ったので、その時に、一番いいと思われるテーブルをリクエストした。
「夫の誕生日のお祝い」とレストランに伝えると、デザートにキャンドルを立ててくれると言った。
当日、オペラハウスに5:00pmに着いた。近くのレストランの下見などしていない。
「P. J. Clarke’s」が目に入った。「ロミオとジュリエット」を観に行った時、「あの店、「ニューヨークの魔法」シリーズに出てくるよね」と夫が言っていたことを思い出した。
同じ店舗ではないが、イーストサイドのP. J. Clarke’sで長年、働いていた男性が、私たち夫婦にご馳走してくれた話だ。奥さんに居場所を見つかり、耳を引っ張られながら、店の外に引きずられて行ったっけ。
「「P. J. Clarke’s」のメニューを見ていたら? オペラハウスでトイレだけ借りて、すぐにそこに行くから」と夫に伝え、私はオペラハウスの入口に立つ係の男性に、5:30になったらそこでチケットを見せ、中に入れることを確認して、P. J. Clarke’s へ。
夫は隣のホテルの脇に立っていた。
「あそこでとくにこれが食べたいっていうものはないな」と言う。
私は夫をP. J. Clarke’s のメニューの前に連れていき、「バーガーがあるよ。ここのバーガーはすっごく美味しいって、評判だよ」と口から出まかせを言う(でも、どこかでそんなことを聞いた気もする…)。
「そうなの? じゃあ、それでもいいかな。光世が下見したほかの店はどこなの?」と夫。
「え…っと。その辺だったと思うよ」となどと適当なことを言いながら、1ブロック分、ひと回りしてみる。
「Rosa Mexicano は? 前にジェリーやマイロン(「ニューヨークの魔法シリーズ」の登場人物)と行って、美味しかったよね」
「メキシコ料理か。高かったけど、そんなに印象に残ってないな」と夫。
ほかに適当な店はない。
「P. J. Clarke’s のバーガー、一度は食べてみないと…」と私。
「そこまで言うなら、じゃあ、バーガーにしよう」と夫。
「せっかくだから、デラックス・バーガーにしよう。あ、そうだ! なぜか、オペラハウスのレストランの予約が入ってなかったの。まだマネージャーが来ていないから、5:30にまた来いって。それだけ確認したら、ここに戻ってきて、バーガーを食べよう」と私はうそをつく。
オペラハウスへ行ったが、5:30まで中には入れない。オペラハウス内の入口には列ができている。レストランで食事する人たちだろう。平日ということもあり、年齢層が高い。
「私はさっきトイレに行き忘れたから、今から行ってくる。5:30までぶらぶらしてたら?」と伝え、私は地下のトイレに行く。レストランの受付の人が、ケーキのキャンドルのことを夫の前で話さないように、サプライズであることを夫にわからないように、知らせなければ。
手元に紙がなかったので、オペラ・チケットが入った封筒に、「これは夫には内緒です」と英語で書いた。
急いで夫のところに戻り、一緒にオペラハウス内の入口へ移動する。
常連も多いのだろう。入口の係の白人男性は、「Welcome. Nice to see you.」などとにこやかに客とおしゃべりしながら、のんびりチケットをチェックしている。その奥で別の男性が、セキュリティのために荷物をチェックしている。
私が係の男性にチケットを見せると、「バースデーのディナーですか」と聞くではないか。レストランからリストでも届いているのだろうか。夫に聞こえたに違いない。
「NO!!」と私は思わず、力んで答える。
「Oh」と係の男性。
夫が背を向けたまま、先に中に入っていったので、私は振り返り、その係員の肩をとんとんと叩き、さっきメモを書いた封筒を目の前に突き付ける。
係員は自分の口を手で押さえると、「モウシワケ、アリマセン」となまりのある日本語で答えた。
彼と私は、苦笑し合った。夫は気づいていないようだ。
皆、階段を上り、レストランへ向かう。
受付で私が封筒のメモを見せると、「すべて承知しております」と言った。
希望どおりのテーブルに通される。
「え? なんで、もうすわれるの?」と夫は怪訝そうに席に座りながら、しばらくして、「ああ、だましただろ…」と笑顔に。
前菜はふたりともパテドカンパーニュ、主菜は鴨のブレストとステーキ。
「シャガールの壁画を見ながら、こんな素晴らしい空間で食事するなんて。最高の誕生日プレゼントだなぁ。ありがとう」と夫は何度も言う。
休憩で再びレストランに足を運ぶと、テーブルの上にすでにデザートが用意されている。
あれ、そういえば、デザートにロウソクが載っていなかったゾ、とオペラの2幕目が始まってから気づく。
次の休憩でまたレストランに戻ると、今度はチーズの盛り合わせとワインが置かれている。
夫に聞こえないように、受付にロウソクのことを伝えにいくと、「今からデザートに立ててお持ちしますよ」と言い、持ってきてくれた。
レストランを出る頃に、私は激しい腹痛に襲われた。この日は、夫が日本に一度帰り、戻ってきた翌日。夫がいない間は小食が続いていたのに、突然のフルコース、しかもデザートに加え、チーズの盛り合わせまで頼んだものだから、胃がびっくりしたのだろう。ワインもふたりで1本、空けた。
アイーダは、本物の馬も登場する壮大な舞台(でも、馬は早く舞台から去りたがって、ちょっと暴れていました)。
壮絶なストーリーを、壮絶な腹痛の苦しみとともに観賞した。
オペラが終わり、化粧室から出て夫を待っていると、そこに案内のために立っていた係の男性が、私に声をかけてきた。
「Did I spoil your evening?(あなたたちの夕べを、私が台なしにしてしまいましたか)」
さっき、オペラハウスの入口で、チケットをチェックしながら、「バースデーのディナーですか」と私に聞いたあの係員だった。
「Yes! (そうですよ!)」と私はわざと怒った顔で答えてから、笑いながら、「いえ、そんなこと、ないですよ。夫は気づかなかったし」と答えた。
「レストランの予約リストを手渡されたものだから…。すみませんでした」とその人が謝った。
夫が現れると、男性が、「Now can I tell him?(今なら彼に伝えていいですか)」と私に聞いた。
私がうなずくと、その人が満面の笑みをたたえて、夫に言った。
Happy birthday to you!